経済学部は必要なのか(34) 文系人間と理系人間 


文系人間と理系人間
過去数年の間に話題となった幾人かの重要人物にもここで触れておこう。正月の家族同伴旅行に政治資金を使ったことなどで東京都知事を辞めざるをえなくなった舛添要一は、東大法学部の出身で正真正銘の文系人間にほかならない。彼は食事代や衣服代にも政治資金を流用したり、毎週金曜日の午後二時ごろには公用車で神奈川県湯河原の別荘に行ったりしていたことも批判された。
他の政治家に対する彼の批判は鋭いが、自分に対してはきわめて甘くてみみっちいという評価が二〇一六年の辞職につながった。彼の批判精神は本物ではなかったといえよう。この問題は世界で報道され、ニューヨーク・タイムズの記事で使われたsekoiが、英語の単語になりそうだと予想されている。ひょっとすると英語の語源辞典に彼の名前が永久に残るかもしれない。
二〇一一年の福島第一原発事故の際、炉心溶融が発生していたのに、東電の清水正孝社長はその隠蔽を指示していたことが二〇一六年に報道された。彼もれっきとした文系人間で、慶応大学経済学部を出ている。
この大事故が発生したとき、彼は関西に出張中と報じられたが、実際には平日にもかかわらず妻と秘書をともなって奈良観光をしていたという。事故の翌日に何とか帰京して、その次の日に会見を行ったが、その後の一ヵ月ほどは「入院」を理由に公の場から姿を消してしまった。このことを米紙ワシントン・ポストは「経営者が雲隠れ」と批判したようだ。Fukushimaは世界中で知られるようになり、この事故は世界史に残るだろうが、当時の社長の行動も同時に記憶されるかもしれない。
東芝はその社名を知らない人が世界にいないほど有名な企業であるにもかかわらず、修正額が二千億円を超える不正会計を行ったことが二〇一五年に明らかになり、世界におけるその評価を下げた。そこには過大な利益目標の達成を迫る経営者と、それに抵抗できない事業部幹部の構造があったようである。
この問題で責任を問われたのは、田中久雄・西田厚聰・佐々木則夫の歴代社長らであった。田中は神戸商科大学商経学部卒、西田は早稲田大学政経学部卒および東大大学院政治学修士課程修了、佐々木は早稲田大学理工学部卒で、三人のうちの二人が文系人間である。この三人は、引責辞任してからも役員室と社用車与えられ使用していたようだ。
 これより、「人社系教育が批判精神を生む」という主張は、根拠脆弱であることが理解できよう。東芝が経営に失敗したのは、歴代社長に文系出身が多かったためである、ともいわれる。東芝がライバルとして強く意識してきた日立は対照的に最高益を更新していたが、その歴代社長はすべて理系出身だ。一九六五年に倒産寸前の東芝を立て直した土光敏夫も、東京高等工業学校(現・東工大)出身の理系人間だった。

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