平成29年12月11日 新自由主義は文化を破壊する

 日本の経済社会が長期にわたって停滞していることの一因は、新自由主義の跋扈にあると私は考える。新自由主義の影響は多岐にわたるが、ここでは文化的影響に触れてみたい。
 新自由主義を含めた自由主義一般には、自由尊重以外の価値がない。人間は法と契約を守って自由に生きればよいとそれは教える。そのため、通常の意味の倫理や道徳や志などの人間の生き方に関係する価値は全く問題とされない。新自由主義は文化と無縁なのである。
このように極端な思想が日本社会を支配するようになったため、他者に対する配慮や社会に対する貢献といった価値(精神)が希薄になってしまった。他人や社会一般はどうでもよく、自分の利益さえ確保できればよい、と多くの人が教えられ考えるようになった。学校でも自由以外の価値を教えることが難しくなった。
 しかし、日本社会を欧米社会と比べて際立たせていたのは、まさに他者に対する配慮や社会に対する貢献といった価値の尊重にほかならない。そのような価値の尊重が効率的な組織を生み、安全で住みやすい社会を作り出した。
新自由主義は市場の理論をもつのみで、組織・家庭・社会一般に関する思想を欠いている。社会全体があたかも市場のみでできているように見なす思想である。市場についても、きわめて偏った見方をしている。組織や家庭や社会一般は文化的な要因に強く規定されて機能するが、新自由主義はそれらの存在を無視しているのである。
自由主義の浸透とともに、かつて世界で最も効率的といわれた日本の組織は、活気のないものに変貌してしまった。企業は労働者を単なるインプットと考えるようになり、若者をはじめとして多くの人たちが不安定な仕事に従事している。孤独死の増大は、社会一般における人間関係の希薄化の象徴であろう。大学生に向学心がないのも、使命感の欠如と密接に関係している。
われわれはこのように偏った思想から一刻も早く脱却して、日本の活力を復活させなければならない。

参考文献:
荒井一博『自由だけではなぜいけないのか―経済学を考え直す』講談社選書メチエ、2009年。

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