平成29年11月22日 不勉強な大学生

 大学で講義してみると、学生の受講態度から彼らの不勉強が推察できる(私の見聞きしているのは文系学生)。ほとんどの講義室で学生は後方の席に座っている。それだけでなく、下位の大学では学生の私語が多くて、正常な講義が困難だ。私語は最後部辺りに座っている学生に多い。私語をする学生に向かって講義する教師は惨めなものだ。教師が私語を注意すると、教室は一時的に静かになるが、しばらくすると元に戻ってしまう。
教室内が私語でワイワイガヤガヤしていても、一向に注意せずに講義を続ける教師がいる、と学生から聞いたことがある。私語を注意すると不愉快になるためであろう。その教師は、黒板やプロジェクタのスクリーンに向かって、独り言をいう気持ちで講義しているはずだ。大変な苦痛であるに違いない。ちなみに彼の講義に対する学生の評価は学内トップクラスらしい。
講義には出席するけれど、机にうつ伏して眠っている(ような)学生がいる。また、講義中にストローでジュースや牛乳を飲む学生が最近は現れているようだ。ひょっとしたら講義中に物を食べる学生もいるかもしれない。まるで相撲や野球を観戦するような気分で、講義に出席しているのだろう。
テレビを見るような気で講義に出席する学生が多いことは、私もかなり前から気づいていた。「教師は勝手に講義してください。私は好きなようにそれを見ています。」というのが彼らの受講態度だ。そこには講義に参加するという意識がない。教師と学生が一つの共有された空間のなかで相互作用を演じるという意気込みがないのだ。そのために、質問を促しても質問しないし、教師が学生を指名して質問でもしようものなら、当惑した表情や不機嫌な表情を浮かべる。できるだけ指名を避けることも、後方の席に座る理由といえよう。
佐藤・田中・尾崎(1994)には、「なぜ、みんなで自分の意見を出して話し合っていくような授業をしないのだろう」という18歳の高校生の意見が紹介されているが、実態は上の通りだ。「教員と学生がともにつくり上げる学びの<場>としての大学」(室井、2015)は理想であっても、現実ではない。批判精神の育成や討議や学生と教師の学び合いなどは美しい言葉であるが、学生の向学心や努力なしには成立しない。今日の学生にはそれらが決定的に欠けている。
大学生を対象としたベネッセの調査によると、「授業の予復習や課題をやる時間」が1週間に1時間未満の者は42.9%、「大学の授業以外の自主的な勉強」の時間が1週間に1時間未満の者は58.7%だという(ベネッセ、2012)。ほぼ半数の学生が授業外でほとんど勉強していない。『ウォールストリート・ジャーナル』まで、「日本の大学生の3分の2がクラス外で週2時間以下しか勉強しない」と報告している(Obe, 2015)。これが内外に多数の難題を抱える日本国の学生の実態だ。多くの日本人が将来を悲観するのではなかろうか。ちなみに、1934年における文系東大生の学校外勉強時間は、1約4時間であった(竹内、2003)。
大学院生の向学心も見劣りがする。ある調査によると、一つの大学院講義に関する学生の勉強時間は週1時間未満の場合がきわめて多い。つまり普段はほとんど勉強していないのだ(試験やレポートのためには多少勉強するのであろう)。大学院講義は少人数であるが、受講生の発言が多いというわけでもない。授業中の発言も考慮して成績をつける、と教師が学期初めに伝えても、熱気を帯びた議論が行われるわけではない。
日本学術会議幹事会声明(2015)は、「我が国及び外国の社会、文化、歴史の理解をはじめとする人文・社会科学が提供する知識とそれらに基づいた判断力、そして批判的思考力」をもつ人材の育成を重視ししているが、そのような人材は、今日の日本の文系学部で一人も育っていないだろう。さらに、「現代世界において次々に生起する一義的な正解の存在しない諸問題について、学際的な視点で考え、多様な見解を持つ他者との対話を通して自身の考えを深めていく力」も重視しているが、いずれの文系学生も身につけていないはずだ。不勉強な学生が「学際的な視点で考え」ることなどまず不可能である。
このような学生たちが、11月15日のブログで論じた授業評価を行っているのだ。今後も大学教育の問題点を議論してゆきたい。

佐藤喜久雄・田中美也子・尾崎俊明『中学・高校教師のための教室ディベート入門』創拓社、1994年。
竹内洋『教養主義の没落―変わりゆくエリート学生文化』中公新書、2003年。
日本学術会議幹事会「これからの大学のあり方―特に教員養成・人文社会学系のあり方―に関する議論に寄せて」2015年723日。
ベネッセ「大学生の学習・生活実態調査(第2回)」2012年。
室井尚『文系学部解体』角川新書、2015年。
Obe, Mitsuru, “Japan Rethinks Higher Education in Skills Push,” Wall Street Journal, Aug. 2, 2015.

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